ADHDで片づけられない人向け|精神科看護師が教える具体的な改善方法

ADHDの方の多くが抱える「片づけられない」という悩み。本記事では、精神科看護師として多くのADHDの方をサポートしてきた経験をもとに、なぜ片づけが難しいのか、そしてどうすれば改善できるのかを具体的に解説していきます。

実は、片づけられない原因は「実行機能の障害」にあり、これはADHDの特性による自然な結果なのです。本記事を読むことで、自分を責める必要がないことが分かり、さらにタイマーやラベリングなど、ADHDの特性に合わせた具体的な片づけ方法を学ぶことができます。

また、片づけが生活に支障をきたすほど深刻な場合は、訪問看護サービスなどの専門家によるサポートも検討できます。ひとりで抱え込まず、ADHDの特性を理解した上で、適切なサポートを受けながら、自分に合った片づけ方を見つけていきましょう。

ADHDで片づけられない原因とメカニズム

ADHDの方が片づけに苦労される背景には、脳の働き方に特徴があります。この章では、なぜ片づけが難しくなるのか、その仕組みについて詳しく解説していきます。

実行機能の障害による片づけの困難さ

ADHDの方の脳では、実行機能と呼ばれる「計画を立てる」「優先順位をつける」「衝動を抑える」といった能力が十分に働きにくい状態にあります。これは、前頭葉の一部が通常とは異なる働き方をしているためです。

実行機能の障害は、以下のような形で片づけを難しくします:

実行機能の要素 片づけへの影響
ワーキングメモリー 片づけの手順を覚えておけない
プランニング 効率的な片づけ方が立案できない
抑制制御 不要なものを捨てられない

物の優先順位がつけられない理由

ADHDの特性として、物事の重要性を客観的に判断することが難しく、すべてが同じように重要に感じられてしまいます

日本精神神経学会の調査によると、ADHDの方の約70%が「物の優先順位づけ」に困難を感じているとされています。

これは以下のような状況を引き起こします:

  • 使用頻度の低い物も捨てられない
  • 思い出の品が増えすぎる
  • 「もしもの時に必要かも」と考えて保管してしまう

注意力の分散と片づけの中断

ADHDの方は、注意力が様々な刺激に反応しやすく、一つの作業に集中し続けることが困難です。片づけ中に別の物が目に入ると、そちらに注意が向いてしまい、当初の作業が中断されてしまいます。

例えば、以下のような状況が発生しやすくなります:

  • クローゼットを整理中に古いアルバムを見つけ、写真を見始める
  • 本棚の整理中に気になる本を読み始める
  • 書類の整理中に未完了の仕事を思い出し、そちらを始める

国立精神・神経医療研究センターによれば、これらの症状は適切な医療支援と環境調整により改善が期待できます。

片づけられないADHDの人によくある困りごと

ADHDの方の多くが片づけに関して困難を感じています。ここでは、特に多く見られる3つの困りごとについて詳しく解説します。

物を捨てられない

「いつか使うかもしれない」「思い出の品だから」という気持ちが強く、なかなか物を手放せないのがADHDの特徴の一つです。

この背景には以下のような要因があります:

要因 具体例
未来への不安 将来必要になるかもしれないという過度な心配
愛着の強さ 物に対する感情的な結びつきが強い
決断の困難さ 捨てるか残すかの判断ができない

片づけ始められない

片づけという大きなタスクに圧倒されて、どこから手をつけていいかわからなくなってしまう状態は、多くのADHDの方が経験されています。

以下のような状況がよく見られます:

  • 散らかった部屋を見て気が遠くなる
  • 完璧にやろうとして手が止まる
  • 片づけの計画を立てることができない
  • 優先順位がつけられない

途中で投げ出してしまう

片づけを始めても、途中で興味が移ってしまったり、疲れてしまったりして最後まで続かないという課題を抱えている方も多くいらっしゃいます。

主な原因として:

  • 注意力が持続しにくい
  • 他の気になることが目に入る
  • 達成感を得られにくい
  • 片づけのゴールが明確でない

このような困りごとは、日本精神神経学会でも指摘されている一般的な症状です。これらの困りごとは決して珍しいものではなく、適切なサポートと対策があれば必ず改善できます。

片づけの問題で日常生活に支障が出ている場合は、精神科訪問看護師による専門的なサポートを受けることで、具体的な改善策を見つけることができます。

ADHDの特性に合わせた片づけの具体的方法

ADHDの方が片づけを成功させるためには、特性に合わせた具体的な方法を知ることが大切です。ここでは、実際に多くの方が成功している方法をご紹介します。

タイマーを使った時間管理術

ADHDの方は時間の感覚が曖昧になりやすいため、タイマーを活用することで片づけの効率が大きく上がります

具体的な時間管理の方法として、以下の表のような区切り方がおすすめです。

作業時間 内容 ポイント
15分 片づけ作業 集中できる時間を意識
5分 小休憩 水分補給や深呼吸

視覚化による整理収納のコツ

ADHDの方は視覚的な情報処理が得意な傾向にあります。この特性を活かした整理収納を心がけましょう。

色分けボックスの活用法

色による区分けは、物の分類や収納場所の記憶を助けます。例えば:

  • 赤色:急ぎの書類
  • 青色:参考資料
  • 緑色:請求書類
  • 黄色:作業中の物

ラベリングの重要性

収納ボックスや引き出しには必ずラベルを貼りましょう。ラベルは文字だけでなく、イラストや写真を併用すると更に効果的です

断捨離の3ステップ方式

物を手放すのが苦手なADHDの方向けに、以下の3ステップで進める方法が効果的です:

  1. 「1年以上使っていない」という基準を設ける
  2. 写真に撮ってから処分する
  3. 迷った物は「保留BOX」に入れて日付を記入

この方法は、日本作業療法学会でも有効性が報告されています。

これらの方法は、一度にすべてを実践する必要はありません。ご自身に合った方法を少しずつ取り入れていってください。どうしても難しい場合は、訪問看護師に相談することもできます。

片づけやすい環境づくりのポイント

片づけやすい環境をつくることは、ADHDの方の日常生活をスムーズにする重要な要素です。ここでは、具体的な環境づくりのポイントをご紹介します。

収納用品の選び方

収納用品を選ぶ際は、「見える化」と「取り出しやすさ」を重視することがポイントです。透明な収納ケースや前面が開く収納ボックスを選ぶことで、中身が一目で分かり、必要なものをすぐに取り出せます。

おすすめの収納用品として以下のようなものがあります:

収納用品 特徴 使用場所
無印良品のクリアケース 透明で中身が見える、積み重ね可能 衣類、文具
ニトリのカラーボックス 手頃な価格、サイズ展開豊富 リビング、子供部屋
IKEAのSKUBB 軽量、折りたたみ可能 クローゼット内

動線を考えた家具配置

よく使うものは、使う場所の近くに配置することが重要です。例えば、調理器具は調理台の近く、掃除道具は玄関近くに置くことで、必要な時にすぐ使えるようになります。

家具の配置は以下の原則に従うと効果的です:

  • 通路は最低でも80cm確保する
  • 家具と家具の間は歩きやすい距離を保つ
  • よく使う場所への移動を妨げない配置にする

目につく場所への必要物の配置

ADHDの方は「見えないものは存在しない」という特性があるため、必要なものは目に入る場所に置くことが大切です。ただし、視覚的な情報過多を避けるため、以下のような工夫が必要です:

  • 見せる収納と隠す収納のバランスを取る
  • 定位置を決めて、必ずその場所に戻す
  • ラベリングを活用して場所を明確にする

家具の高さは視線の高さを考慮して選びましょう。一般的に、立った時の目線の高さは約150-160cmと言われています。重要な物はこの高さに配置することで、自然と目に入りやすくなります。

以上の環境づくりのポイントを実践することで、ADHDの方でも無理なく片づけを継続できる空間を作ることができます。困ったときは、お近くの精神保健福祉センターに相談することもできますので、一人で抱え込まずに専門家に相談することをおすすめします。

継続的に片づけを習慣化するコツ

片づけは一回だけでは意味がありません。ADHDの方が継続的に整理整頓を続けられるよう、実践的なコツをご紹介します。

ルーティン化の方法

毎日同じ時間に決まった場所から片づけを始めることで、習慣化がスムーズになります。例えば、夕食後の19時から15分間、玄関の靴の整理から始めるなど、具体的な時間と場所を決めましょう。

スマートフォンのリマインダー機能を活用すると、片づけの時間を忘れにくくなります。また、音声アシスタントに「毎日19時に片づけの時間を知らせて」と設定しておくのも効果的です。

時間帯 片づけ内容 目安時間
朝食後 食器の片づけ 5分
帰宅時 玄関周りの整理 3分
夕食後 リビングの簡単な整理 15分

達成感を得られる目標設定

小さな目標を設定し、達成の喜びを積み重ねることで、片づけへのモチベーションを維持できます。目標は具体的で達成可能なものにしましょう。

例えば、「今日は本棚の1段だけ整理する」「机の上の文具類を3つ処分する」といった具体的な目標を立てます。達成したら、お気に入りのお菓子を食べるなど、自分へのご褒美も効果的です。

目標の種類 具体例
1日の目標 洗面台の整理
週間目標 クローゼット1段の整理
月間目標 本棚全体の断捨離

家族との協力体制づくり

ADHDの方が一人で抱え込まず、家族と協力して片づけを進めることで、継続的な習慣化が可能になります

片づけの苦手さを家族に理解してもらい、具体的な役割分担を決めることが重要です。例えば、子どもの部屋は本人が基本的な片づけを行い、収納の工夫は親が手伝うといった具合です。

家族との効果的な役割分担例

家族 担当する作業 頻度
本人 日用品の片づけ 毎日
配偶者 収納の見直し 月1回
子ども 自室の整理 週1回

一人暮らしの方は、精神科訪問看護サービスを利用して定期的なサポートを受けることも検討してみてください。専門家が片づけのコツを一緒に考えてくれます。

専門家に相談するタイミング

ADHDの片づけの悩みは、一人で抱え込まずに専門家に相談することで改善の糸口が見つかることが多いです。ここでは、具体的にどんなタイミングで専門家に相談すべきかをご説明します。

片づけが生活に支障をきたす場合

以下のような状況が続く場合は、精神科医やADHD専門の心理カウンセラーに相談することをおすすめします:

状況 具体例
身の回りの整理 必要な書類が見つからず、期限に間に合わない
生活環境 散らかりすぎて床に足の踏み場がない
社会生活 片づけられない部屋に人を招けない

厚生労働省の精神保健福祉センターでは、ADHDに関する相談も受け付けています。まずはここに相談してみるのも良い選択肢です。

うつ症状との関連性

片づけられないことで自己否定的になり、うつ症状が出てくることがあります。次のような症状が見られる場合は、早めの受診をお勧めします:

  • 毎日の生活に楽しみを感じられなくなる
  • 食欲の低下や不眠が続く
  • 何をするにも疲れを感じる
  • 自分を責めてしまう考えが止まらない

片づけの問題は、精神科訪問看護を利用することで大きく改善する可能性があります。訪問看護師は実際の生活空間で具体的なアドバイスができ、継続的なサポートを提供できます。

また、精神保健福祉士に相談することで、利用可能な福祉サービスについての情報を得ることもできます。

専門家への相談は決して恥ずかしいことではありません。むしろ、自分の特性を理解し、適切なサポートを受けることは、よりよい生活を送るための賢明な選択といえます。

早期の介入により、片づけの問題だけでなく、それに付随する二次的な精神的負担も軽減することができます。ご家族と相談しながら、まずは気軽に専門家に相談してみることをお勧めします。

まとめ

ADHDの方の片づけの困難さは、実行機能の障害による症状であり、決して怠けているわけではありません。タイマーを使った時間管理や、無印良品やダイソーの収納ボックスを活用した視覚化など、ADHDの特性に合わせた対策を取り入れることで、片づけは必ず改善できます。

特に効果的だったのは、スマートフォンのタイマーを使った15分間の片づけと、色分けした収納ボックスの活用です。一つの作業に集中できる時間を守りながら、少しずつ進めていくことで、途中で投げ出すことも減っていきます。

しかし、一人で抱え込まず、必要に応じて専門家に相談することも大切です。訪問看護ステーションでは、ご自宅での片づけのサポートや、生活リズムの立て直しなど、専門的なアドバイスを提供しています。片づけの問題で生活に支障が出ている場合は、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。

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